神奈川新聞(2004.4.19)揺れる絶対評価不公平%試の背景4
「鎌倉の子は劣るのか」 古都の反旗
 「藤沢の中学校の先生と総入れ替えをしない限り、鎌倉の子供は湘南高に入れないのか」「県教委が来春に改善しても今春の受験生はどうなる?かわいそうに」。皮肉交じりに、鎌倉の市議らは怒りをあらわにした。
■点数化が困難
 県内の公立高は百八十八校(県立百五十三校、市立十五校)。ほとんどの高校は前期選抜は絶対評価による内申点に加え、面接や小論文、部活動などの実績も一部は点数化したが、県立湘南高は絶対評価だけを点数化した。「湘南高を受けるような生徒は面接の予行練習が周到で、点数化するのは困難だ。小論文の点数化も客観性を持った採点が難しい」(大澤知來・湘南高校長)との理由からだった。
 前期選抜で、鎌倉市立中は計九校をすべて合わせても同校の合格者数は八人と不振を極めた。一方、同じ学区の藤沢市立のある中学校一校だけで十一人が合格した。
 三月十二日。鎌倉市の一般会計予算等審査特別委員会。市議らは絶対評価を活用する公立高入試について集中質疑を行った。特別委には県内の三十七市町村の三年生一学期の評定分布一覧(県教委作成)、鎌倉市立中学校別の分布一覧(市教委作成)が提示された。
 市町村別平均の「5」の評定割合は、社会が藤沢幽・0%、鎌倉10・8%、数学が藤沢24・5%、鎌倉13・0%…。全教科にわたって藤沢の評定が上回っていた。
■退廃もたらす
 鎌倉市外のある学校関係者は「鎌倉の中学校の多くは学習環境として落ち着きがない。その結果として評定も低いのではないか」と推定した。
 ある鎌倉市議は集中質疑でこう切り込んだ。「(藤沢との評定格差の)数字に客観性があるというのなら、鎌倉の子は全般に成績が悪い、劣っている、ということか」市教委の課長は「鎌倉の数字は妥当と考える。藤沢の数字(の妥当性は)把握していない」との答弁にとどめた。
が、集中質疑の数日前、中学校の落ち着きのなさが低い評定につながったとの見方に、同課長は体を振るわせて怒った。
「ひどすぎる。鎌倉の全中学校の日常を見てほしい。どこの中学校も一生懸命やっている。落ち着きがない学校はない」この市議は「後期選抜でも、湘南高の関係者は『学力検査はほどんど受験生が満点近くで差がつきにくかった。結局は内申点の差が合否に大きく影響した』と言っていた」とし、「評価が信頼できないと教育に否定的な状況、退廃をもたらし、子供に計り知れない打撃を与える」と憂えた。
■自らをただす
 「今春受験した子供たちに取り返しのつかないことをしてしまった。それを、私たちはいつまでも忘れてはいけない。多感な時期の子供たちの心情を思うと…」
 こう前置きした別の市議は「鎌倉では教科部会ごとに精度を高める協議をしてきたというが、学校間でこんなにも差が出るのは驚きだ」とし、鎌倉市立中学校間の分布一覧を取り上げた。
 「5」の割合を見ると、例えば数学の場合、ある中学校が6・8%、別の中学校は35・8%。全教科で二・七-五・二倍の格差が生じていた。
 数学で35・8%が「5」だった中学校は音楽で最低の6・5%。どの中学校も全教科で高めに評定をしょうとした意図性は認められなかった。
 が、同市議は自らの襟をただすよう求めた。各教科で評定がぱらついた原因を追及。五段階評定を出す前段階の観点別評価(国語は五観点、残り八教科は四観点)の付け方(「A」「B」「C」の三段階)が「達成度80%でAにする学校もあれば、75%でAの学校もある」と指摘。「ある教科は観点別でオールAで『4』の評定。それが妥当か、どこが悪かったのか納得していない生徒たちがいる」とただした。
 市教委側は「できる範囲で、各校の状況を調査していく」と答えた。
■教育長の決意
 三月九日、県教委は横浜市内で全市町村教委の指導事務主管課長会議を開いた。席上、鎌倉市教委の課長は発言した。
 「来春の入試から学区が撤廃される。絶対評価の精度を高める取り組みは鎌倉だけでは難しい。今まで以上に改善が図られるには、県教委の取り組みが非常に重要だ」市町村間格差が生じないよう調整に当たるべき県教委の責任を暗に問いながら、入試に絶対評価を使う県教委方針の範囲内での発言にとどめた。
 翌十日、市教委見解は入試での活用のあり方に「問題あり」とのスタンスに転換する。同日の市教育委員会定例会。教育委員らは入試のあり方を、ひとしきり問題にした。熊代徳彦教育長が、最後にこう発言した。
 「絶対評価は先生方の数十年来の念願の評価だった。相対評価では、いくら努力しても報われないお子さん方がいた。それが絶対評価で報われるようになった。その長所を伸ばしていかなければならない。ただ、この絶対評価を外部での比較に、入試に使うことに問題がある。(使わないように)県教委が対応していくかは、全県的な立場で要望しなければ実現しない。今後、私は教育長会(湘南三浦地区の五市二町)で、この問題を取り上げさせていただく」
 教育長の穏やかな口調の一言一言には、動かぬ決意がこもっていた。
 十二日の特別委の集中質疑で、また別の市議が「絶対評価を入試資料に使うことが間違いだ」と指摘、市教委の見解を迫った。市教委側のハラは決まっていた。課長は答えた。「(事務主幹課長会議では)他市からも疑問の声が出ている。問題として声を上げていくことが必要だ」
(古賀敬之)