神奈川新聞(2004.3.22)
揺れる絶対表価
“不公平”入試の背景
 受験生に渦巻く不満 「15の春」の傷心

 県内の公立高で後期選抜が一斉に行われた二月二十三日、県立湘南高校(藤沢市鵠沼神明)を受験した生徒たちが午後三時すぎに受験会場から出てきた。「十五歳の春」のプレッシャーから解き放たれたはずなのに、それぞれの表情はこわばったままだ。達成感やすがすがしさは、どこからも漂ってはこなかった。
■主観評価?
 後期選抜で同校を受験した生徒二百七十五人は、その多くが前期選抜(一月二十六、二十七日)で同校を受け「不合格」になった。会場から真っ先に出てきた男子は学区外からの受験。この男子は投げ捨てるようにこう言い残し、会場を足早に去った。「(入試資料に活用された)絶対評価は(教師の)主観が入りすぎだ。僕?厳しく付けられてましたよ」
 県教委は前期、後期の二段階で選抜制度をこの春から実施した。コ人ひとりの個性に応じた選抜制度」として、前期は「学力検査を伴わない選抜の機会」と位置付け、定員の30-50%の範囲で各高校に募集人員を決めさせた。湘南高の場合、最低の30%で、前期定員は九十五人(藤沢・鎌倉両市の学区内七十二人、学区外二十三人)。競争率は学区内は三・八倍、学区外は五・八倍。
 後期選抜は残る70%と前期辞退者分の計二首二十八人に対し、二百七十五人が受験、競争率は一・二倍だった。
 後期選抜を終えたばかりの鎌倉市立中の一群も浮かない表情だ。「鎌倉より藤沢の中学校の方が全体に絶対評価の付け方が甘かった。そんなのずるいよ。絶対におかしい」「前期では面接が三分。(面接官は)高校で何をやりたいのか、とありきたりなことしか聞いてくれなかった」と不満をぶちまけた。
 鎌倉市立中(九校)が藤沢市立中(十九校)に比べ、九教科すべてで平均評定が低かった。
 ある男子は「合格は内申点を上げるため先生にこび、世渡りのうまさで決まる。しかも鎌倉の生徒には不利。無茶苦茶な入試だ」と皮肉った。
■格差は歴然
 藤沢市立中の男子二人は、学習塾での他校の生徒たちとの情報交換で、同市内の各校の前期選抜で合格者数を把握していた。一方の男子は「内申点の付け方が各校でばらばらだから、こんなことになる」と矛盾の核心を突いた。もう一方の男子は「前期選抜は受験する前に内申点で合格者が決まったも同然。後期も六割が内申点で決まり、(評価が厳しい学校の生徒たちには最初から)ハンディがある」と指摘した。
 湘南高の選考は二、三年生の絶対評価による九教科(五段階評価)の内申の合計点の上位者から合格にした。合格ラインが並んだ場合は部活動や生徒会役員などの実績で上位者から合格にした。
 絶対評価が合否判定の決め手であり、選抜前に既に合否は決まっていたという見方もできる。
 前期選抜で、藤沢市内では十六人受験し十一人が、十三人中で九人がそれぞれ合格する“好成績”の中学校がある。一方で十人中でゼロと振るわない中学校もある。「県内の公立中で学力はトップクラス」といわれた中学校も十六人中一人の合格にとどまった。絶対評価(一学期)の教科ことの評定は、社会科が、ある中学校は三年生の六割以上に「5」を付け、別の中学校は7%と厳しく付けた。他教科も歴然とした"格差"があった。
 後期選抜は、後期定員の八割(百七十七人)は県教委の規定に従い、絶対評価の内申点に六割のウエートを置き、学力検査四割。湘南高側の裁量で決められる残る二割(四十五人)の選考は、絶対評価の内申点を合否判定に活用することの一切を除外し、学力検査結果の上位から合格者を決めた。選考する側の湘南高も、中学校の絶対評価に信頼性を置いていないことをうかがわせている。
■合格ライン
 とりわけ受験生たちが「不公平」さを指摘する前期選抜は、学区外の受験生の場合、定員の25%までの枠があり学区内の生徒よりも狭き門。二、三年生を通して九教科オール「5」の生徒でも不合格者が出た。学区内の受験生は三年生の評定がオール「5」、二年生で「4」が一教科だけある生徒が合格ラインで並び、部活動や生徒会などの実績で合否が決まった。
 関係者はこう解説した。「受験生が二年生の時は比較的に厳しく評定し、三年生になると急に甘く付けだした中学校もある。こうした学校は、いったん付けた二年生の評定を修正できない。一貫して評価が甘かった中学校ほど、合格者を多くだしたということだ」同じ学区内の藤沢、鎌倉両市でも評価に地域間格差があり、藤沢の一市だけでも学校間格差が大きい。学区外の受験生を含めると二重、三重に不満の声が広がっていく。
 後期選抜を終え、最後に湘南高の正門を出たのは鎌倉市立中の女子二人だった。「不公平です」。一人が言うと、二人は顔を見合わせ黙りこくってしまった。
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 二〇〇二年度から小・中学校の評価法は相対評価は絶対評価に移行、さらに今春から公立高の入学者選抜制度は前、後期に分かれ、前期は学力検査を伴わなくなった。絶対評価と前期選抜の設定の双方がクロスした途端、受験生やその父母から不満が一挙に噴き出した。“不公平”を生みだしている背景を検証する。(古賀敬之)