高総検レポート No 62

2002年11月5日発行

「シックスクール」を考える(その2)

再編・条件グループ

はじめに

 高総検レポートbU0「シックスクール」で、シックスクールについての「文科省通知」と、シックスクールの問題点について報告しました。神高教本部は、「通知」にもとづいて県教委に直ちに実態調査を行うよう交渉を行いましたが、当初県教委は予算(2500万円程度)を要求するが県財政の現状では難しいとの見解を示していたものの、神高教の追求によって事の重大性を鑑みて予算化するに至っています。先の高総検レポートでは、シックスクールとともに、電磁波の危険性についても報告しましたが、東北大学理学部の研究者は本年2月「電磁波は反射することから電車内における携帯電話使用の危険性を指摘する研究結果」をまとめ、朝日新聞が6月その記事を掲載し反響を呼びました。さらに、朝日は8月24日付け紙面で「WHO(世界保健機関)への研究協力の一環として国立環境研究所などが行った全国疫学調査」を掲載しました。それらによると、携帯電話が出す高周波や高圧送電線、家庭電器製品から出る超低周波のいずれもが健康に影響を与える危険性がきわめて高いことが指摘されています。
 また、化学物質過敏症発症者は電磁波に対しても過敏となり、電磁波被曝と化学物質の複合汚染によって症状が悪化することも指摘されています。私たちは、学校現場におけるこのような「被害」を極力除去する努力を行うとともに、生徒の健康被害実態把握と、生徒が発症したときの対応・対処などを考えなくてはならないでしょう。そのためにも、私たちがシックスクール(シックハウス)・ガウスシンドローム(電磁波過敏症)などについて「知る」事から始めなくてはなりません。

シックスクールとは何か?

 シックスクールとは、学校の施設、設備、教材、薬品その他を原因として起こる化学物質過敏症(ケミカルシンドローム)のことです。新築の家などを原因とする場合をシックハウスといいますが、発生場所・原因が違うだけで両者は同じものです。
  化学物質過敏症は、一般にCS=Chemical Sensitivityと呼ばれます。国の機関では、本態性化学物質過敏症=MCS=Multiple Chemical Sensitivity と呼びます。CSの症状は個人によって異なり、このような症状がCSだと断定することは難しいのですが、次のような症状が出た場合にはCSを疑うことが必要です。
  事例1:発疹、下痢、結膜炎、鼻水、鼻づまり、食欲不振、せき込み、腹痛、疲れやすい、手足が冷たい、発熱などの症状が全てもしくは複数同時に出る。
  事例2:激しい頭痛、思考能力なし、意識途切れる、激しいめまい、イライラ、怒りっぽい、不眠、脱力感、筋肉・骨の痛み、視野狭窄、光に過敏、目の乾き、耳鳴り、味覚なし、息がしにくい、喉がふさがる、呼吸困難、喉が異常に乾く、手足が冷たい、冷や汗(手足に粘っこい汗)など、そのときの症状により様々な組み合わせで発症する。
  2000年12月、市民団体「CSネットワーク」は文部省(当時)に要請交渉を行い、 その中で130人の子どもたちの症例から次のような結果を報告しました。
 

・健康被害を引き起こす原因・健康への影響
床用ワックス (61人)
文具・教材 (48人)
石鹸・洗剤 (46人)
校舎の工事 (35人)
教職員の化粧・たばこなど(34人)
農薬・除草剤 (33人)
プールの塩素 (33人)
アトピーなどアレルギーの発症悪化 (68人)
頭痛  (50人)
鼻水・鼻痛など  (30人)
結膜炎・目やになど(26人)
吐き気 (26人)
 その交渉の中で、学校でのいくつかの事例が報告されています。その一部を紹介します。

 この結果を見ると、健康被害を与える原因物質としてもっとも多くあげられたのは「床ワックス」です。ほとんどの学校で使用されている床用ワックスは石油系ワックスで、TBXP=リン酸トリスブトキシエチルを含み、その使用説明(安全シート)によると、取り扱いはゴム手袋、保護眼鏡、有機ガス用マスク着用の上、換気を十分に行い、保護衣(作業衣、安全靴)を着用するように書かれています。しかし、実際にはほとんどの学校で、安全シートに従わず生徒に素手で扱わせているのではないでしょうか。CS発症者の保護者が学校にワックスを扱わせないように訴えても、「一人だけ特別扱いはできない」と取り合ってもらえなかった、という事例も報告されています。

早急に必要な「シックスクール」対策

 このような中で、CS対策が行われる学校も出てきています。三鷹市の私立明星学園小中学校では、2000年9月校舎建築時に室内空気汚染防止のために、室内木装化を進めました。これは、保護者から、シックハウスを起こさない学校にして欲しいとの要望に応えて実施したものです。その内容は、内装に防虫・防腐処理をしていない無垢材を使用、床は全てヒノキ間伐材で、接着剤にノンホルムアルデヒドを使用、塗料は水性塗料を使用、部屋の空気が、1時間に3回半外気と入れ替わる空調設備を設置したことなどです。
 また、本年文科省は、全国50校の室内化学物質実態調査を踏まえ、「学校環境衛生の基準」の室内空気濃度の中に、ホルムアルデヒドなどを盛り込みました。さらに、建築基準法が改正され、新たに次の2化学物質の規制が加わりました。

ホルムアルデヒド・・・換気率を改善、使用面積を規制
クロルピリホス・・・・使用禁止
 しかし、室内濃度規制は実施されませんでした。その理由は、「濃度は気象条件等で変わる」「測定にコストがかかる」というもので、校舎建築に関わる児童・生徒の安全性の観点は十分なものではありません。今後、新たに建設や改修される校舎について、シックスクールを出さない為の対策の充実が求められています。さらに問題なのは、現在の校舎への対策です。先の「教室内化学物質濃度」に関わる文科省通知の速やかな実施と、指針以上(指針値以下なら安全とは言えないが)の値が出た場合には速やかに改修を行うことが必要です。

電磁波被曝とCSの複合汚染

 しかし、化学物質が微量でも電磁波との複合汚染で発症する例も多く報告されています。
 シックスクール問題は、化学物質だけでなく、電磁波も含めた総合的危険物質調査が求められています。複合汚染の症例として次のような事例が報告されています。

東京タワーや高圧送電線の危険性

 高圧送電線の危険性は、前述した国立環境研の報告にも見られるように日本においても証明されました。WHO(世界保健機関)は、高圧送電線からの電磁波は「発ガンの可能性がある」として、2001年10月、各国政府や電力業界に予防対策を取るように伝えました。しかし、日本はこれまで「電磁波とガンとの因果関係に科学的根拠なし」(総務省電波環境課)として、対策は必要ないとの姿勢をとってきたのです。しかし、アメリカではすでに「ラピッドプログラム」(1999.6.)によって「電磁場は発ガンの可能性あり」と結論付けています。そして「全米ガン研究所」は、ファミコン、ヘアードライヤー、テレビなどによって白血病の危険性が増大することを表明しています。また、ヨーロッパ各国でも「予防原則政策」の立場に立ち、スウェーデンに見られるような「慎重な回避政策」によって対応を進めています。また、高圧送電線だけでなく、東京タワーなどの電波塔や携帯電話の中継基地なども危険であると指摘されています。

携帯電話のマイクロ波の危険性

 携帯電話から発生する超高周波(マイクロ波)の脳への影響も懸念されています。2000年8月、イギリスでは16歳以下の子どもの携帯電話使用禁止を勧告しました。アメリカでも、携帯電話の電磁波強度を表示することを義務付けるなど、各国も対策に乗り出し始めています。
  翻って日本ではどうでしょうか、携帯電話は使い放題、満員電車の中でも、授業中でもところかまわずと言うのが実態でしょう。最近、病院、電車内、劇場などでの使用制限が言われるようになりましたが、携帯電話を使用する本人への悪影響は認識されていません。また、学校内「電磁波」についての認識もほんとどないのが実状でしょう。私たちは、「情報」が新カリキュラムで必修化される今を契機に、学校内「電磁波」問題を視野に入れる必要があるのです。

シックスクール・「電磁波」問題を知ろう、そして考えよう

 シックスクール問題や、「電磁波」問題を考えるときに必要なことは、これまでほとんど考えられてこなかった、学校内環境問題の認識を深めることから始めなければならないと思います。私たちは、次の事を考えて行かねばならないでしょう。
  *CS(シックハウス)や電磁波過敏症で苦しむ児童・生徒・教職員が存在することを理解し、その事実を生徒に教えていく必要があります。
  *学校の授業・部活動・施設・建物内などで、症状が出た時に適切な対応ができることが必要です。
  *そして、その発症の原因の1つに「学校」があることを理解する必要があります。
  *学校で使用する物は、「シックスクール」を起こさない安全な物を選択する必要があります。
  *学校で使用する電気製品や、パソコンなどの危険性を考え,対応策をとる必要があります。   *学校内変電室などの危険性を考え,変電室の近くに常時いることの危険性を認識する必要があります。   *何よりもまず学校室内化学物質・電磁波・学校で使用する化学物質などの実態調査を行なう必要があります。そしてその場合予防原則の立場に立つ事が必要です。。   *そのためには、少しでも電磁波の発生の少ない電気製品やパソコンの導入を図ることが必要です。(例えば液晶画面のほうが発生は少ないなど)

 シックスクール(化学物質過敏症)やガウスシンドローム(電磁波過敏症)は、まだ医学的にも研究が始まったばかりです。ですから、研究結果も次々に新しい成果が報告され、逆に古い研究成果は否定されていきます。しかし、私たちは予防原則と学校からの危険可能性の除去、という観点でこの問題を捉えなければならないと考えます。その意味で、学校の「場」の安全性の確立と「安全教育」の必要性が迫られていると言えるでしょう。