高総検レポート No 49

2001年6月12日発行

高総検「教育改革国民会議報告・教育改革関連法案討論会」報告

 去る01年5月19日(土)「主役は現場だ!県立高校「教育改革【教員】会議」と題して教育改革国民会議報告・教育改革関連法案討論会をもった。基調報告として毎日新聞社文部科学省担当記者、澤圭一郎氏に「『教育改革国民会議報告』後の文部科学省動向」というテーマで講演をお願いした。澤氏は、毎日新聞社で文部科学省を担当しており、昨年3月、「国民会議」が立ち上がるときからその動向を追っている。以下その内容を要約して報告する。

 最近の文部科学省の動向だが、小泉内閣になり文部科学大臣として遠山敦子氏が起用された。民間からの女性閣僚と報じられたが、実際は純粋の民間出身ではなく文部省から民間を経てまた戻ったというものである。この人事については、先の町村文部大臣、森前首相の2人の意向がはたらき、町村氏の進めてきた教育改革をそのまま引き継ぐ人という大前提のもとで後任選びが行われた。この前提のもと残ったのが遠山氏とのことである。前町村大臣の傀儡という人もいる。実際に就任後の政策に遠山氏独自の政策、考えはうかがえず、すべて、前大臣が敷いたレールの上を走っているといえる。
 ただ一つの変化としては、教育基本法の手直しの問題がある。町村氏のもとで、6月半ばに中教審に諮問、1年の審議の後に結論、といわれていたものが遠山氏の就任以来、この6月説が出てこなくなった。
 担当大臣でありながら語れない背景には、今後の選挙の動向をきちんと見極めたい、という官邸の意向が見え隠れする。小泉内閣の誕生、8割以上というほとんど空前絶後の支持率。自民党の復権が期待できる。つまり、7月にある参議院選挙の動向を見極めて、基本法の諮問ができるのかどうかをさぐっているのではないかと考えられる。参議院選挙に突入して、自民党が現状より少しでも上乗せすることができれば、その後で基本法の諮問があるのではないかと考えられる。
 一方で注目されるのが文部科学省の動きだ。現在、文部科学省内で、改訂後の基本法の法案作成が急がれており、それも事務方が前文から最後の条まで、全部書きなおす勢いで新案文を作成中ともいう。
 基本法の諮問が選挙の前になるのか後になるのかというのは、文部科学省が進める教育改革政策に国民がついてきてくれるかどうかが、流れを決める可能性も大きいようだ  文部科学省はパンフレット持参で地方に出向き、PTAの会合で、「国民会議」の提言がベースとなっている『21世紀教育新生プラン』の中身を懇切丁寧に説明して、いかに素晴らしいものであるかを訴え、PR活動を続けている。そして、この教育新生プランはかなり支持を受けている。例えば、義務教育段階では理解の得られなかった習熟度別授業にしても、分からない授業のまま進めていかれるよりは、分かるように少しレベルを落として、やってくれたほうが遥かにいい、という声が少なからずある。また、問題を起こす子どもの出席停止というのも今回の法案に入っているが、新聞社への投書からは7割くらいの方が“断固やるべきだ”という感触がある。「出席停止」にしても「習熟度別授業」にしても、自分の子ども、あるいは自分がその立場だったらと置き換えて考えて、“いい”と判断していると考えられる。
 『21世紀教育新生プラン』に対する声は、問題点を指摘するよりも、多くは改革賛成の方向に向かっているようだ。日教組をはじめ組合の皆さんの指摘する問題点が果たしてどのくらい保護者の側の耳に届いているのか、そして、やっぱり違うんだと理解をされるのかについては、あまり見通しが明るくないのではと感じる。非常に状況は厳しいのではないだろうか。
 もう一つ、「奉仕活動」の問題。17歳の少年の事件が相次いだということが非常に印象深かったせいか、奉仕活動を学校レベルに取り入れた方が子どもがおとなしくなってくれるんじゃないか、というふうに感じている方が多いのではなかろうか。取材現場においても、基本法の話より奉仕活動の方が議論になる。印象としては、強制はよくないけれど、奉仕する心は大事だ、と理解を示す方が多いようだ。
 全員参加についても、文部科学省は、奉仕活動のアイテムをたくさん作り、その中から子どもたち自身が自分のやりたいことを選択すれば、それは決して強制ではないという説明をPTAの会合で行い、文書でも配る。あるいは、記事でもそういうのを流させようとしている。こういう話を聞けば、保護者の方が、学校でそれをやってくれるんなら、これはありがたいと思うのも不思議ではなくなる。言葉や説明が取っつきやすい分、理解を示す方が多いようだ。
 道徳教育については、国立教育政策研究所で現在の副読本の見直しが本格的に行われている。
 基本法の話に戻ると、小泉政権の高い支持率を背景に現在の勢いである程度進められるのではないか。7月の参院選を受けて秋頃までに諮問がなされるのではないか。一方で基本法の問題はあまり国民の議論になっていない。関心を持っているのはマスコミと先生方の一部で国民のレベルではほとんど話題にならない。文部省の役人は、学校の先生だって読んでいないじゃないかと言う。もちろん保護者の方にしても基本法を全文読んで、それが一体どういう意味をなすのかというのを逐一知っているという状況にはない。しかし、国民的関心がないからといって、その問題をマスコミと先生だけで議論しているのは問題ではなかろうか。基本法が何を目指しているのか、理念的な枠は、私は大賛成であり、変える必要はまったくないと考えている。
 昨年の「国民会議中間まとめ」の発表前後、基本法の改定という文言を盛る盛らないで、官邸と委員の間にかなりの軋轢があったようだ。毎日新聞は委員からの取材をもとに「基本法の改定はない模様」と新聞で報道を行った。ところがその後、新聞報道に対して「中間まとめ」に「基本法の改定」が盛られないのではという焦りを抱いた官邸が、元文部大臣を使って、“何とか盛ってほしい”という説得を2時間、3時間続けるということまでやっていたようだ。
 結局、「最終まとめ」が出されるときに、「改正が好ましい」という文言に変わっていったのだが、中間まとめが出される直前の委員の雰囲気が、おそらく国民会議のスタンダードなあり方を示していたのではないか。「最終まとめ」が出される段階で、「このままでは国民会議を設置した意味がない」とまで言って官邸がかなり強引に脅しをかけるという険悪なところまで行く場面もあったそうだ。
 このような経過をたどって生み出されたのが国民会議の報告である。この状況の中で、基本法の改定があまり国民に議論されていないというのは、マスコミとしての責任もあるかもしれないが、国民全体に基本法が何を持っているのかということがあまり伝わっていないのではないか感じる。
 組合の皆さんにお願いしたいが、今回の別冊のレポート(筆者注:高総検レポート別冊『教育基本法は古くない!!』。討論会会場で配布。また、同日の中央委員会にて、各分会1冊配布。)のような分析がまとめられているのであれば、これをもっと、マスコミ、集会などで一般の方に説明するなりの仕組みを作り上げるべきではないだろうか。もっと広める努力をしていただきたい。それによって、保護者の方が一人でも多く基本法について関心を抱いて、「あ、これは変える必要がないんだ」という思いを持っていただけるのであれば、と思うが、いかがであろうか。

 澤氏の講演は、教基法改悪への危惧を訴えるとともに、『21世紀教育新生プラン』がかなり支持を受けており、01年4月24日の日教組指示全国統一職場集会の資料とした、高総検小冊子『「教育改革国民会議報告」批判』にまとめたような、私たちの主張が、保護者の側に理解をされる見通しが明るくないという強い指摘を行っている。この状況下で、私たちが、今できることは何か。現場からの教育改革が、焦眉の急となっているのではないか。以下、討論会参加者(含む澤氏)による討議の内容を、ポイントを絞って、課題毎にまとめた。この中に、そのヒントがあれば幸いである。

高校における習熟度別授業

学区撤廃(自由化) 現場からの教育改革