高総検レポート No 34

1998年6月10日発行

県立高校将来構想検討協議会「これからの県立高校のあり方について(協議経過の中間まとめ)」を読む。

「これからの県立高校のあり方について(協議経過の中間まとめ)」は、各校に配布されています。以下、文中の(P )の記号は、同冊子より引用した頁を示します。

学校間格差は無視されている。

 「U今後の高校教育に求められるもの」(P3〜8)として挙げられている「1個が生きる教育」・「2豊かな心(人間性)を育む教育」・「3望ましい社会性の育成」は、いまさら指摘されるまでもなく、、教育現場において、私たちが長年希求し続けてきたものである。しかし、それが阻害され、課題集中校に顕著なように、教育病理が押さえがたいものとなっているのが、現状である。
 その原因が、「W将来構想の推進にあたって』で指摘されているように、「保護者や県民だけでなく教職員の中にも根強い」(P22)意識である、「数値や成績、「学(校)歴」などが過度に重視される」(同)傾向であることも、言うまでもない。つまり・、一部のエリート養成のための受験体制、それに連動した、卒業後の社会的階層の仕分けを高校教育段階から導入している学校間格差にその全てが求められる。入選における競争と排除の論理、選抜する私たちの側から言えば、適格者主義を克服しない限りは、「学ぶ意欲や「学習歴」が適切に評価される社会への転換」(同)はその第一歩も踏み出せはしない。
 本中間報告は、この実情に対する認諌があまりにも低いのではないか。  「県立高校の果たすべき役割」の中で、「目的意識や学習意欲に欠け、中途退学に至る生徒がいる実情」(P4)、「いじめや不登校、薬物乱用、性の逸脱など」の「深刻な状況」(P4)を現状として把握しているが、それを「生徒の多様化」(P4)の一言で括っているのは、あまりに安易である。「各高校の特色が明確なものとなり、生徒がさまぎまな観点から高校を選ぶことによって、高校間の序列意識の変革が促される」(P9)として、高校の多様化によって生徒の多様化に対応し、その結果として、学校間格差が解消されるというのが、本中間報告の趣旨である。そうした文脈から、「各校の特色は一層幅のある多様なものとなってきた」(P3)ことを前提として、「生徒自らが進路希望こ基づいて、入りたい高校へ志願できるように選抜制度を改正し」(P4)たことによって、現在既に学校間格差が解消されつつあるかのような流れで報告がなされているが、これは、まったく事実に反する。
 県教委から全校に指示された、いわゆる「特色づくり」は、単位制・総合学科・専門コース制の文部省タイプの高校にしか機能していない。大多数の高校では、教育条件整備、私たちの施設設備的条件・人的条件の要求に対する回答、が皆無に近い状況であることから、県教委に「特色づくり」の報告は提出したものの、各校のプランは、虚構化している。むしろ、それ以前に、ファーストフード産業の販拡競争のように、他校との差別化を図るような「特色」が必要であるかがまず疑問である。
 同じく、全校に指示された、入選の「重視する内容」は、その前提であるべき「特色」が虚構化しているために、各校の具体的な教育活動との結びつきが極めて希薄であり、外部から見れば選抜方法が不明確とならざるをえない。導入初年度に大幅な定員割れを生じ、また、学習塾業者の団体が情報公開運動を展開したのは当然の結果である。入選改革は、学校間格差を何ら解消していない。複数志願制は、大多数の受検生が第1希望校と第2希望校を同一とし、そうでない受検生も、第2希望に上位校を記入することは稀である。中学進路指導の読み違いなどによる定員割れの危険性を増大させただけで、受検生は、やはり<行きたい学校>ではなく<行ける学校>を選択せざるを得なくなっている。それのみならず、総合的選考は、<行ける学校>を可能なかぎり上位校とするために、内申書に縛られた「いい子仮面」の中学生を生むという新たな病理を生じさせてさえいる。内申書対策の看板を掲げた学習塾までが、現在、生まれつつある。
 つまり、入選改革は、現行の学校間格差に沿って機能をしているだけである。「個が生きる教育」を望むならば、今求められるべきは、希望者全入の方向性を持った改革である。「特色づくり」、即ち、高校の多様化が、例えば高校統廃合による教育予算削減というような手段で、財政的な実現性をもって実働したとしても、やはり学校間格差を固定化するだけでしかないのは、明白である。

学校間格差から校種間格差へ移行する。

 「今後の高校教育に求められるもの」に記載されている内容は、受験体制による競争原理、各校の適格者主義の排除を前提として初めて成立する。それは、「特色づくり」という他校との差別化によって解消するものではない。卒業後の社会的階層のの仕分けに連動している学校間格差を残したまま、高校を多様化すれば、必ずそれは校種間格差にシフトする。序列がより深刻に再編・固定化されるだけで、「高校間の序列意識の変革が促される」ことなどはない。
 朝日新開(98・5・22夕刊)の報道によると、東京都立国分寺高校の教員を、都教委が懲戒処分としたことが問題となっている。同校の単位制高校への移行を、歴代のPTA会長や卒業生などに手紙で伝えたことに対する処分である。都教委は、学校群制度以来の学校間格差を拡大しない制度改革の方針を転換し、97年の「都立高校改革推進計画」で、進学校を指定する方針を打ち出している。単位制高校は、幅広い選択科目によって、受験教科に沿った勉強ができるため、大学受験に有利と認定されているのである。同じく朝日新聞(98・5・15朝刊)は、都立晴海総合高校総合学科の必須科目「産業社会と人間」での、日本IBM会長の一日講師を報じている。文部省生涯学習振興課長のコメントによれば、「教育に注文を付ける財界人は多くても、実際に参加する人はほとんどいなかった。歓迎したい。」とのことだが、都立高校では、単位制は大学受験校に、総合学科は財界人が直接参入する職業人輩出校にシフトしているのでは、と考えられる。
 本中間報告には、このような卒業後の進路を露骨に固定化した多様化は示されてはいない。むしろ現在ある校種間格差の問題点を指摘している文脈さえある。すなわち、「専門高校では、明確な進路意識を持てないまま、不本意な気持ちを抱いて入学した生徒が見られることも否定できない。」(P12)とし、また、「全日制を希望したが、定時制に入学した生徒」(同)という文言もある。さらには、県立高校では弥栄西高・弥栄東高が研究校となることが決定された、中高一貫教育に対しては、一定の意義を評価しつつも、「ー方、受験競争の低年齢化を招く懸念や、中高一貫教育の利点が一部の生徒に限られるなどの点から、中高一貫教育の導入に対して慎重な意見も見られる現状がある。」(P16)と指摘している。
 しかし、そうした問題点を認識しながらも、「Vこれからの県立高校のあり方」に「多様な教育の提供」(P9〜13)として、百花繚乱のごとく校種を示しているのは、どういうことであろうか。単位制・総合学科・専門学科・普通科・普通科専門コース・専門高校・定時制・通信制の多様化に加えて、単位制普通科のタイプによる類型化、総合学科のタイプによる類型化、普通科の特色による類型化、1校内の複数専門コースの設置、新たな専門学科の設置、単位制専門学科の構想を述べており、校種が極めて細分化されている。仮に、学区内にこれらが全て実現して、校種間格差にシフトした場合、ほぼ1校1校種となり、現在の学校間格差をそのまま引き継ぐのではないかとさえ思われる。中でもことに、「新たな専門学科の設置」(P11)はその「ニーズ」が薄弱であるし、また、「普通科における専門コースの充実・改善」の根拠として、「専門コースが、学校のいわば「顔」となることによって、地域に根ざした特色ある学校づくりの意識が高まり、学校全体が活性化することにも寄与してきた。」(P11〜12)とあるのには、どこに実態があるのかと、首を傾げたくなる。無理やりに、多様化プランをひねり出しているかの観がある。
 校種間格差による不本意入学への対処として、「今後、進路変更などの積極的な理由によって転学を希望した場合にも対応できるよう、転入学の機会の一層の拡大が望ましい。」(P15)とし、「学科間の移動や専門コースと一般コースの間の移動についても弾力的な運用が図られることが望ましい。」(同)と述べ、進路変更の柔軟対応を提言している。ことに、入学時の「明確な目的意識」(P11)から後戻りのできない専門コース制については、「入学後の進路変更についても、生徒の実態に応じた弾力的な対応をすることが望ましい。」(P12)と強調をしている。しかし、現行のいじめなどに対する教育的配慮による転入学制度、また、中途退学者に対する再入学制度が、教育病理の解消にどれほど貢献をしているかを考えた時、いかに転編入学を弾力化しようとも、根本的な解決にはならないことは明白である。さらには、全日制・定時制・通信制の課程間での弾力化について言及がないことも、不十分である。
 加えて・隣接学区規定(隣接する学区同士で越境受検を認める制度)に対して、「今後、県立高校の再編成や統廃合進展の中で、学区のあり方について、検討が必要となることも考えられる。」(P17)として、抑制した表現ながらも積極的な姿勢見せているのは、大きな問題である。隣接学区規定は、昨年、県教委が、教育改革問題検討会(神教協+県教委)での検証を無視して、独善的に教育委員会(教育委員5人で構成)に報告をした「平成9年度公立高等学校入学者選抜の検討」の中で、「平成11年度以降の入学者選抜で、何らかの措置の必要性と方法を検討する。」としたものである。この制度の導入は、学区制の破壊であり、さらに格差を拡大させることとなる。現に、義務制においてさえ、「通学区域の群力化」によって、今春、小・中あわせて約1000人の新一年生が指定校とは別の希望校へ入学した東京都大田区では、「変更先”名門校”に集中する現象が見られ始め」ているとの報道がある。(朝日新聞98・6・2朝刊)
 以上は、つまり、本中間報告の改革の主眼は統廃合にあり、教育病理を解消するための格差是正にあるのではないことを示すものである。
 現在必要なのは、なによりまず、格差自体を是正する方向の模索である。

目的は教育予算の削減である。

本中間報告は、「I県立高校の果たすべき役割」の中で、「経済の低成長化傾向等による国や自治体の財政難など、教育を取り巻く状況も厳しさを増している」(P4)、「高校教育においては、こうした社会経済状況の変化を踏まえ、教育内容の充実を図る」(同)としながらも、教育予算に関して正面から数値化して示すことはしていない。しかし、県教委は、2005年の少子化ボトムの時期には、現行182校(県立166校)の公立高校は80%の学校数で充足するため、県立高校の量的な見直しが必要と、既に言明している。先に述べた「特色づくり」が、人と金の両面から各校の要求に基づいて充足してきたとは言えず、今後の保障もないことを考えれば、県教委が、予算をかけない多様化を手段として、経済効率の面からの統廃合を行なうプランを、将来構想検本報告後に打ち出してくることは十分に予想できる。将来構想検への諮問手項である「県立高校の適正な規模及び配置に関すること」、「県立高校の教育内容の充実に関すること」、「その他上記に関連する県立高校の将来のあり方に関すること」は、そうした教育予算の削減を意味したものであることは疑いない。これは、高校教育の質的な低下につながるものである。
 「IIIこれからの県立高校のあり方」の中で、「多様な選択やきめ細かな指導などさまざまな教育活動が展開できる規模、「多様な個性のふれあいの場を保障することができる規模」(P17)の確保のために、また、「学校の活力の低下」、「教員配置数の減」、「学校運営に支障」、「部活動等への影響」(同)が生じることを防ぐために、「一定の学校規模の確保」(同)が必要として、単位制普通科・総合学科・普通科専門コース・学校連携の「特色ある高校」を地域ごとに配置した「再編整備」を説いているのは、ここに直結する。
 また、直接に教育予算の削減を図ると読める部分もある。定時制・通信制における「実務代替、大学入学資格検定合格科目の単位認定、技能連携」及びそれらを前提とせざるをえない「修業年限の弾力化(=3年卒業制の導入)」(P13)、「学校間連携と課程間連携」や「実用英語技能検定などの技能審査の成果」「ボランティア活動、大学における単位取得、各種学校・公開講座における学習など体験活動等の成果」の単位認定という「自宅以外での学習成果の単位認定」(P14〜15)、「企業での体験学習の機会を拡大したり、大学の授業に参加したりする」ことの積極的な検討や「保護者、地域の人々や団体、企業等がボランティアとして学校をサポートするような活動(学校支援ボランティア)」といった「学校教育における地域・社会との連携・交流」(P19)が、それである。これらに対しては、「開かれた学校」としてではなく、学校教育の「外注」として機能する危惧を感ずる。特に、「学校支援ボランティア」のサポーターに「保護者、地域の人々」はともかくも「団体、企業」までが想定されているのは、それが特定校種にのみ導入され、校種間格差と連動した時、高校教育が社会的階層の仕分けを現在よりも露骨に行なうこととなる危険性がある。

まず学級定数減を検討すべきである。

 少子化時代の到来は、教育現場にとっては、きめ細かな指導が行なえる絶好期である。教育病理の解消は、一朝一夕に達成できるものではない。極彩色のアドバルーンに追従するのではなく、一歩一歩、私たちの教育政策の根幹である「希望者全入」「高校間格差是正」「地域に根ざした高校づくり」に沿って、その解消を図っていくべきである。そのための第一歩として、まず、学級定員減の追求をしなくてはならない。
 本年4月に、長野県小海町のこつの町立小学校が、町教委の独自予算で行なった19〜18人の少人数学級が話題になった。保護者の反応も上々であったということだが、定数法を背景に、長野県教委は「教育の機会均等、公平性の観点から是認しがたい」という不可解な方針を示して、学級統合を強要した。しかし、小海町は、学級を一つに統合して、科目に応じて授業を二つに分けるチームティーチング(複数指導方式)を導入して、実質的に少人数学級に近い形を確保した。(朝日新聞98・4・10)この名を捨てて実をとる方式は、マスコミでも好評であった。
 神奈川県も、多様化・統廃合以前に、こうした地方自治体としての工夫を検討しなければならないのではないか。30人学級、当面35人学級を目指さなくてはならない。教育には予算をかけるべきであることを、必ず県民も支持をするはずである。
 本中間報告の中にも、「学級定員を段階的になくしていくことが望ましい。」(P17)との指摘がある。しかし、どうやって「算定基礎としての」の「当面1学校40人」(同)を変えていくかには、何ら触れられていない。40人学級を堅持している以上は、学級定員減の指摘は、アリバイ的な言い訳としか読めない。
 高校多様化と高校統廃合の派手なアドバルーンばかりが目立つのは、まことに遺憾である。

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