高総検レポート No 33

1997年12月22日発行

神奈川県教育委員会「平成9年度公立高等学校入学者選抜の検討」の検討

 1997年11月、神奈川県教育委員会は、「平成9年度公立高校入学者選抜制度検討」(以下「入学者選抜の検討」)報告を教育委員会(教育委員5人で構成)に行い、それが地区進の場て全校長に配布された。これは、教育改革問題検討会(神教協+県教委で構成)での検証とは別個のものであり、「職員団体」の意見を聴取したとしながらも、当局サイドの見方からする一方的な内容といえる。12月12日、第10期高総検準備会はこの問題を緊急に討議した。教育改革問題検討会での検証状況と今後の対応については、討議用資料化がすすめられているが、この内容に対する批判を4点に絞ってまとめた。

*神奈川県教育委員会「平成9年度公立高等学校入学者選抜の検討」内容項目一覧*

1 検討の方法
  (1)意見聴取(2)アンケート調査の実施(3)入学者選抜結果の分析
2 検討の結果
  (1)選抜日程について ア 関係者から寄せられた主な指摘・要望等
              イ 県教育委員会の考え方
              ウ 今後の対応
  (2)制度について
   〔制度全般・複数志願制〕       (ア・イ・ 同上)
   〔総合的選考〕            (ア・イ・ 同上)
   〔推薦入学〕             (ア・イ・ 同上)
   〔全日制再募集〕           (ア・イ・ウ 同上)
   〔隣接学区〕             (ア・イ・ 同上)
   〔学校事務の増加〕          (ア・イ・ウ 同上)
  (3)入学者選抜業務支援システムについて(ア・イ・ウ 同上)
  (4)その他
   〔学力検査問題〕           (ア・イ・ウ 同上)
   〔進路指導〕             (ア・イ・ウ 同上)
3 今後の検討と改善
                          <A4版全7頁>
→「入学者選抜の検討」の全文は、97年12月3日第3回入選対策会議にて、
資料として参加全分会に配布されています。
*97・7・7高校教育課「平成9年度公立高等学校入学者選抜に関するアンケート調査の結果について(抜)*

(1)平成9年度公立高等学校新入生   (2)上記新入生の保護者
   ・配布数 32校 1,258人     ・配布数 32校 1,258人
   ・回答者 32校 1,208人     ・回答者 32校 1,107人
        (回収率96.0%)          (回収率88.0%)

2 調査期間 平成9年5月12日から16日

3 調査結果の概要
(1)新入生に対するアンケート
問4 複数志願制について
   A1校志願より複数志額制の方がよい      39.6%
   B複数志顛制より1校志顛の方がよい      15.9%
   Cわからない                 44.3%
   D無回答                    0.2%
問6 選考の方法について
   A「成績」だけで合否が決まった方がよい     5.4%
   B個性や長所も含めて合否が決まった方がよい  27.2%
   C9年度選抜のように「成績」と個性や長所も  38.3%
    含めた選考の組合せがよい
   Dわからない                 28.8%
   E無回答                    0.3%
問10推薦入学について
   A現在実施している学校、入学枠(定員)でよい 23.5%
   Bできるだけ少なくした方がよい        10.7%
   C実施する学校や入学枠(定員)をもっと拡大し 39.6%
    たほうがよい
   Dわからない                 25.6%
   E無回答                    0.6%

(1)保護者に対するアンケート
問1 複数志願制について
  A1校志願より複数志願制の方がよい       48.2%
  B複数志願制より1校志願の方がよい       25.7%
  Cわからない                  25.3%
  D無回答                     0.8%
問3 選考の方法について
  A「成績」だけで合否が決まった方がよい     11.6%
  B個性や長所も含めて合否が決まった方がよい   19.1%
  C9年度選抜のように「成績」と個性や長所も   50.5%
   含めた選考の組合せがよい
  Dわからない                  17.5%
  E無回答                     1.3%
問5 推薦入学について
  A現在実施している学校、入学枠(定員)でよい  26.0%
  Bできるだけ少なくした方がよい         16.0%
  C実施する学校や入学枠(定員)をもっと拡大し  34.1%
   たほうがよい
  Dわからない                  22.5%
  F無回答                     1.4%
<上記アンケートに対する神高教の批判>
「いかにも急であり現場への配慮がかけている」(97・5・9分代)
「(1)第一希望合格・第2希望合格に分けた分析ではない、(2)設問の設定の仕方によって恣意的に回答を誘導できる(「選考の方法について」)、といった点から、県民の声とは言えない」(97・8・29分代)

複数志願制 中高連携の下、情報を共有し、新制度の趣旨内容の理解の徹底を図る。(「内容項目一覧」の下線を付した「ウ今後の対応」より。以下同じ。)

4分の3の受検生は複数志願制拒否!

→「イ県教育委員会の考え方」(以下「考え方」)は、「複数志願制については、アンケートにおける生徒、保護者の声や12,000人以上の受検生が複数の学校を志願したこと等から十分とはいえないまでも生徒自らの進路希望にもとづく学校選択を実現するものとして機能し、また「行きたい学校」へのチャレンジにも活用されたものとして評価すべきものと考えられる」と謳い上げている。しかし、12,000人以上の受験生とは、全ての受験生の4分の1に過ぎず、残り4分の3の受検生は第1希望・第2希望を同一校としているのである。彼らにとって、この複雑な入試制度導入は、意味のないものとなっている。
→アンケートに関しては、「ア関係者から寄せられた主な指摘・要望等」(以下「要望等」)に、数値を示さずにアンケート結果(表面参照)を詳述し、それを上記の「考え方」の主たる根拠としている。しかし、このアンケートは、合格者のみに実施された不完全なものであり、神高教のアンケートに対しての批判は無視されている。また、アンケート結果にしても、新入生は、複数志願制について「Cわからない」がもっとも多いのであるが、それには触れていない。
→「不本意入学を生み出す制度である」という「要望等」に対して、「考え方」で、一方的に「第1希望も、第2希望も共に受検生本人の選択、希望であり、いずれの合格であれ「不本意」ということは本来、あるべきものではなく、そのような受けとめ方があるとすれば、新制度の趣旨を踏まえた進路選択が行われなかったことによる」と述べるのみであり、実態・事実に基づき評価を行う視点は皆無である。
→史上最多の欠員の原因については、「考え方」で、「受検生のとまどい等から、私学への志向が例年に比べて強かった」ためと推測している。また、「一部の私学が推薦入試において定員を大幅に上回る合格者を出したことも原因の一つ」とも述べている。したがって「新制度が定着し、実績が積み上がるなかで欠員もより小さなものになると思われる」、との「考え方」を示しているが、この上なく楽観的な憶測であり、やはり実態からの検証の姿勢はない。

総合的選考 各高校が地区毎に小冊子を作成し、説明会等で情報提供を行うので、高校の特色作りをすすめるとともに、理解増進を図る。

恣意的なアンケート結果を根拠に!

→「要望等」に、「アンケートにおいては、「9年度入試のように成績と個性や長所も含めた選考の組み合わせがよい」とする意見が、生徒、保護者ともに多数を占めた」と記し、「考え方」では、「総合的選考の制度自体については、アンケートによると生徒・保護者の多くが支持して」いる、と述べている。しかし、このアンケートの「選考の方法について」の設問は、新入生、保護者とも、「A「成績」だけで合否が決まった方がよい」「B個性や長所も含めて合否が決まった方がよい」「C9年度選考のように「成績」と個性や長所も含めた選考の組合せがよい」「Dわからない」という設定であり、誰でもが、BかCに誘導される。希望者全入ではなく、選抜である以上は序列化をせざるを得ず、「個性や長所」もその対象となるため、中学生は中学校生活の全般を、その人格に関わることについてさえ、内申書を意識して送らなくてはならなくなる。そうした事実を隠蔽した恣意的な設問設定の結果を、総合的選考及びその前提である高校の特色作りの主たる根拠としている。
→「要望等」に、「内申書のために、ボランティアをやる生徒が出てこないか」という制度的問題を批判する意見が載せてあるが、これについては、何も考えを示していない。
→「考え方」に、「これまでの数値のみによる基準では合格し得なかった者が合格し多様な生徒が高等学校に入学する途が開かれたという学校現場からの声」もあるため、「「数値のみでなく生徒の特性や長所に着目した選抜」を実現するにあたりこれまでに比べ前進したものと考えられる」という記載がある。実態に関する検証が未実施のままで、総合的選考によって学校間格差が解消に向かっているかのような断言は、一方的に過ぎる。

推薦入学 専門学科、単位制、総合学科の推薦枠の拡大と普通科一般への推薦制度導入について、平成11年以降の実施に向け検討を行う。各学校の特色にふさわしい生徒を推薦・選考できるように、中高連携を密にし、各高校の特色や「選考にあたって重視する内容」等の理解の増進を図る。

誰が推薦の拡大を切望しているのか?

→アンケート結果を見ると、新入生では、拡大意見が39,6%で、現状維持と縮小の意見を足すと34,2%となる。拡大意見が圧倒的多数とはいえない。保護者では、拡大意見が34,1%で、環状維持と縮小の意見を足すと42,0%となり、拡大反対の意見の方が多数である。恣意的なアンケートに裏切られてしまっているわけだが、この項目では、アンケート結果に何ら触れていない.
→普通科一般への推薦制度導入は、94年の「改正大綱」には、「今後の課題とし、引き続き検討していくこととします」と説明されている。実施検討時期を明示するまでに進展した根拠は何なのだろうか。
→「考え方」に、「各校の特色にふさわしい、適性、興味、関心、進路希望等を有する生徒の持味を生かすために有効な方法」(下線筆者)とあり、「自分の個性にあった特色をもつ学校を生徒が選択する」(従前の県教委の主張)のではなく、特色ある高校が生徒を選別する適格者主義の方向性を露呈している。

隣接学区 平成11年度以降の入学者選抜で、何らかの措置の必要性と方法を検討する。

学区制の拡大・崩壊!

→接する学区同士で越境受験を認める、隣接学区規定の導入は、学区の拡大であり、また、接する学区の境がなくなることであるから、学区制自体の崩壊を意味するものである。環行の学区外砕8%でも、志願者の集中する高校は上位と下位に位置しており、隣接学区の志願を認めれば、さらに格差は拡大することになる。希望者全入、学校間格差是正の実現のためには、学区の縮小が不可欠であり、それなくしては地域に根ざした高校という理念も成立しない。県教委諮問機関である入選脇(76〜79年)、高問協(80〜85年)は、学区の段階的縮小の考えを示し、90年から県央学区、県北学区が各々二分割された。その流れを、新入選のもととなった「第2次報告」を出した高課研(91〜93年)が塞ぎ止めたのだが、この「入学者選抜の検討」では、逆流の開始時期を明記している。
→「学区間の志願や進学機会のアンバランスの是正のために有効な方法」と、「考え方」にあるが、そのようなアンバランスの実態があるとは聞かされていない。94年の「改正大綱」にも、「隣接学区の扱いを設けることについては、今後の学区外への志願状況を見ながら検討する」と明記されているはずである。