高総検レポート No 32

1997年12月22日発行

「神奈川の高校についての意識調査〜県立高校を中心として〜」批判


第1O期高校教育問題総合検討委員会は第186回中央委員会(10.4)で設置が確認され、現在、検討(諮問)事項の整理、委員の委嘱にむけて準備会を開催しながら発足準備をすすめています。11月21日の準備会の席上、標記のアンケートについて、緊急に討議が行われました。正式な発足の前ではありますが、緊急にその一部を紹介します。

1.露骨な誘導

右の新聞記事(10月28日神奈川新聞)(注:このWEB文書版では、新聞記事の引用を行っていません)の「『県立高校よりも私立』人気4倍も」という見出しを見て、ショックを受けた人も多いでしよう。しかし、この「意識調査」は、本当に県民の意識を客観的に反映したものなのでしようか。県のおこなった「意識調査」そのものにもどって検討してみます。
 この調査は、今年の7月に、県民部県民課がおこなった「神奈川の高校についての意識調査」というものでした。20歳以上の県民を対象とし、調査数は3000、回答数は1825でした。しかし、その設問の仕方を見ると、あきらかに回答が誘導されています。たとえば、私立高校についてのイメージを問おうとする場面で、こんな説明がつけられています。

問l3. 神奈川県は近代私学発祥の地と言われており、独自の校風を築いてきましたが、
  今後の私立高校のあり方についてどう思いますか?(下線は筆者)
こう書かれていれば、回答者は「独自の校風を伸ばすべきだ」、という方向で答えざるをえないでしよう。もし、客観的な回答を得ようとするならば、こんな前置きはつけないはずです。また、こんな設問もあります。

問l5. 現在、中学卒業者のほとんどが高校に進学しており、生徒の個性や能力、興味・
  関心などは、多様なものになっています。そのため、一部には学習意欲に欠け
  る生徒や学習の遅れがちな生徒、さらには中途退学に至る生徒もいますが、あ
  なたは高校ヘの進学について、どう思いますか。(下線は筆者)

なぜ、こんな前置きをしたのでしよう。そして、「学習意欲があり、ある程度以上の基礎学力のある生徒が進学できるようにすべき」と、この前置きに忠実に対応した選択肢が設定されています。あきらかに回答の誘導がおこなわれています。こうまで言われてなお「希望すればだれもが進学できるようにすべき」と答えることは難しいでしよう。(ただし、これだけの条件のもとでも、回答者の52.8%が「希望すればだれでもが進学できるようにすべき」と答えたことには注目すべきでしよう。)

2.不思議な設問、不思議な選択肢

さらに「これからの県立高校に期待すること」という表題のもとで設定されている質問項目にはこんなものもあります。

問19. 今後の県立高校にはどのようなタイプの高校が必要だと思いますか。次の中か
  らいくつでも選んでください。(〇はいくつでも)
1.単位制高校(無学年制で、自分で時間割をつくり、自分のぺースで学習できる)
2.総合学科(普通科目から専門科目まで、進路を考えながら多様な科目を選択できる)
3.普通科の一部に専門コースをおく高校(普通科目のほか、外国語や福祉など特定の分
 野の科目を重点的に学習できる)
4.福祉科や食物調理科など新しい専門学科を持つ高校
5.大学などへの進学に重点をおく高校  6.その他  7.わからない

 これしか選択肢はありません。しかも複数回答です。その上、()内に説明がつけられています。単位制も総合学科も様々なあり方、様々な側面を持っています。単位制や総合学科が、この説明だけで理解されたとは思えません。はたして、回答者は「単位制」「総合学科」という言葉そのものを理解して選んだのでしようか、それとも()内の説明を選んだのでしようか。こんな設問である以上、この結果をつかって新聞記事のように、「これからの県立高校に期待することでは、『総合学科』(67.O%)、『専門コース』(55.1%)の導入とした答えが多く」と、数値で明確に結論がでたかのように書くのはあまりにも作為的です。そして、大部分の高校生が、いま学んでいる普通高校も職業高校も、この選択肢には含まれていません。現在ある高校の大部分は、そもそも不必要だとでもいいたいのでしようか。
 ところで、県当局は、現在ある県立高校を「全面的に改革」していくというつもりがあって、ニの設問をつくったのでしょうか。そうは考えられません。この問に続く部分で、「(単位制高校や総合学科高校が)何校ぐらい必要ですか」と聞いています(問20)。そこにならぶ選択肢はこうなっています。

1.当面、1校ずつでいい(現状のままでよい)
2.学区内のどの地域に住む生徒でも通学できるよう、あわせて5〜10校程度
 あった方がいい。(下線筆者)
3.各学区(18学区)ごとに設置した方がいい  4.その他  5.わからない

 「5〜10校」という具体的数字が明記されています。実は、中高一貫校の設置についても、同じような選択肢のならべ方になっています。おそらくこの「5〜10校」という数字は、県当局にとっては、それなりに意味ある数字なのではないでしょうか。「5〜10校」あれば「県内のどの地域に住む生徒でも通学できる」と、なぜ言えるのか、その根拠はわかりません。根拠がわからなくとも、「そんな条件があるならば、こんな数でよいか」と回答者はこの選択肢を選ぶことになるでしょう(事実、この回答がもっとも多く、38.7%でした)。ここには「すべての県立高校」という項目は存在しません。「これからの県立高校に期待すること」という大層な表題を掲げながらも、ここで対象としているのは、県立高校全体ではなく、いくつかの高校、多くてもせいぜい各学区(18学区)1校ていどの高校にすぎないことが、見えてきます。そうだとすると、「これからの県立高校に対しては・・・『総合学科』や普通科内の国際・福祉など特色ある『専門コース』の導入による"特色づくり"を望む回答も目立った」と、あたかも「県立高校全体の将来像」を描きだすかのような新聞記事は、まったくの誤解にもとづくとしか言いようがなくなります。
 では、いまある高校はそのままで、いくつかの高校(それこそ5〜10校)を増設しようと思って、こう聞いたのでしょうか。それもないでしょう。なぜなら、後で次のような設問が、わざわざ設定されているからです。

問31. 今後、子どもの減少に伴って、高校進学者も減り、仮に現在の公立高校の規模
  を単純に将来にあてはめると、10年後には、現在の公立高校全体(182校)のおよそ
  8割程度の学校数で足りることになりますが、将来、県立高校が余るという可能性
  があるということをご存知でしたか。(○は1つ)
1.知っていた  2.知らなかったが、意外ではなかった  3.知らなかったし、意外だった

 「これからの県立高校のあり方についてお聞きします」というタイトルのもとで、この問は立てられています。いったい何を意図しているのでしょう。回答者は不思議におもったのではないでしょうか。県当局は、「調査」という名をかりて、「これからの学校は余る」ということを周知徹底しようとでも考えているのでしょうか。ともかく、このように「これからの県立高校は余る」ととらえられている以上、単位制であろうが総合学科であろうが、いまさら増設など、考えられるはずもないのです。では、いったい県当局は何をねらっているのでしょう。

3.「調査」の行きつく先は統(廃)合

この「調査」の最後に位置する設問「問33」をみると、いろいろな疑問がとけてきます。

問33. 将来、県立高校が余ると仮定した場合、県立高校の今後のあり方について
どう思いますか。次の中からいくつでも選んでください。(〇はいくつでも)
1.生徒の多様なニーズヘの対応や学校全体の活力の維持のため、近隣の学校を統合する
2.同じ敷地の中に独立した2校を隣接して配置し、2校の間で授業の交流などもおこなう。
3. 普通高校、専門高校を含め統合し、単位制高校や総合学科などの新しいタイプ
 の高校を増やす。  4.その他  5.わからない (下線は筆者)

 「県立高校は余る」という仮定を立てて選択をせまっています。そして、選択肢のなかには、「統合」という言葉がつかわれています。「2校を隣接して配置」というのも事実上の「移転―統合」を意味しているといえます。
 ここまでくると、先の「問19」の意味もあきらかです。「今後の県立高校にはどのようなタイプの高校が必要ですか」という問は、「余った県立高校を統(廃)合して」という前提を隠して聞いたものにすぎなかったのです。
 最後に位置するこの設問から振り返ってみると、この「調査」全体の意図も、見えてきます。県立高校と私立高校を比較して、県立の「人気のなさ」をしめす。さらに、「特色や個性の見劣り」を浮き彫りにする。そして、「県立高校は余る」から「統(廃)合」して、「多様なタイプの高校」をつくろう。ただし、その数は「5〜10校」である。こんな方向へ地ならしをするために、この「調査」がおこなわれたのではないでしようか。

4.巧妙に仕組まれた「意識調査」

この「調査」の各問の設定の仕方は、すでに指摘したように、誘導的であり、また選択肢にもかたよりがあります。その点で、この「調査」は稚拙なものであり、おそらくどこかの社会学教室の学生が作ったものならば、指導教員が落第点をつけるようなしろものでしょう。しかし、「統(廃)合」を前提としたー定の方向ヘの地ならしとして、この「調査」をつくったと考えるならば、実に巧妙に仕組まれた「調査」だったと言えます。しかも、この「調査」は、「県が策定をすすめている『県立高校の将来構想づくり』の参考材料にする狙い」でおこなわれた、と新聞も伝えています。とすると、「県立高校の将来構想」の行きつく先もまた、おのずと見えてきます。「意識調査」という名をつかい、「県民の意識」を利用し、マスコミを利用して、既成事実を積み上げていこうとする、こんな巧妙な誤魔化し、卑怯な手法を許してはならないでしょう。そして、県が策定をすすめている「将来構想」と称するものにも、最大限の注意を払い、警戒していかなければならないでしょう。