高総検レポート No 10

1990年11月8日発行

高校生の就職をめぐる諸問題について

県労働部との話し合いを終えて

 高総検進路グループでは、昨年「就職指導実態調査」を行い、そのまとめを来たる11月17日(土)の県教研で報告をする。県立高校卒業生の約1/4が就職をしていく状況の中で、進路指導担当は大変な努力をしている。アンケート調査をまとめていく中でいくつかの問題点が指摘され、その中には我々教員の力だけでは解決できない問題もあった。そこで我々の不勉強を解消することと、行政側に実態を知ってもらう意味で、9月に県労働部職業対策課と話し合いの場を設けた。以下にその報告を兼ねて問題の所在と解決の方向性についてまとめてみたい。

1.「指定校推薦」の形をとった求人依頼について

 各学校に求人票が送られてくる場合、企業は「指定校推薦」の形で求人依頼をしてくる。しかしすべての学校に同じだけの求人が来る訳ではない。就職者を毎年多く送り出す学校では、長年の間に企業と築いてきた信頼関係により、たとえ不況の年でも多少の融通を利かせてもらえたり、毎年何名という枠を貰っていたりする。逆に求人が少ない、あるいは偏った職種の求人しか来ない学校では、生徒の希望をかなえるために、求人要請の企業訪問をするなど必死の努力をする。そのアンバランスから、高校間の競争が始まる。更に校内では、限られた推薦枠をめぐって「事前選抜」が行われ、求人票公開前にある程度の振り分けが行われたり、夏休みに入ってすぐ見学に行き、実質的な選考を受けるなど就職協定の崩壊につながるような指導をせざるを得ない現実がある。 このような問題を解消するには、一つに「指定校推薦」という枠をやめて、どこの学校の生徒でも自分が希望する企業を受験する機会を保証してやることが考えられる。現在のやり方では、量的にも職種的にも十分な求人がある学校にとっては何ら問題はないが、そうではないところでは公平さということからすれば大きな問題があるからである。
 この「指定校推薦」をめぐる問題について、労働部の考えは次のようなものであった。「指定校推薦」と確かに言っているが、これは文字どおりの「推薦」と言うよりも「紹介」の意味で考えていた。だから企業に対しても、求人者数の3〜5倍ぐらいの数で、自分のところに生徒を送ってくれそうな学校に求人票を出したらどうか、とアドバイスをしている。すべての学校に同じ求人が行く訳ではないので、公平さということから言えば問題はある。しかし、管轄の職安に行けば、高校生を募集している企業は分かる。必要があるならば職安を通して学校に送付してもらうことはできるし、直接学校から請求することもできる。職安に提出されている求人票は、すべての高校生に公開されていると考えてよい。生徒が職安に求人票を見に来るのは構わないが、先生との関係があると思うので、紹介は学校で受けるように指導している。 「指定校推薦」は、企業と学校とのなれあいという訳ではなく、すべての学校から応募者が出てあまりに高い倍率が生じては、落ちた生徒が困るだろうと思いやっていることである。職安で意志統一をして、企業に対してすべての高校に求人票を出すように言うのは簡単だが、「指定校推薦」を無くしてしまうと学校と企業との良い意味での信頼関係が無くなり、学校側が逆に困るのではないだろうか。

 労働部の指摘のとおり、学校はある意味で企業との信頼関係の上で就職指導をしてきている現実があり、即座に「指定校推薦」をやめると混乱が生じるであろう。しかし、一方でこの制度の陰で涙ぐましい努力をしている学校も少なからずあり、生徒にしてみれば、入った学校によって就職先(受験できる企業)もある程度限られてしまうという不公平さが残ることも事実なのである。

2.求人情報誌による求人について

 最近、学校の紹介を受けずに市販されている求人情報誌(「週間就職情報」とか「フロム・エー」など)を見て自分で就職先を決める生徒が増えてきている。この背景には、学校の指導に縛られたくない、或いは教員にあれこれ言われたくないという生徒が増えてきていることもあるだろうが、更には1学期の成績で「1」を取ったり、欠時数が多く学校から推薦出来ない(いわゆる卒業見込みが立たない)と言われた生徒が求人情報誌にはしるということもあると思われる。卒業見込みの問題は後で別に触れることとして、この求人情報誌のことを労働部はどう捉えているのかについて聞いた。 新聞や雑誌に広告を掲載したり新聞に折り込み広告をしたりして人を募集する文書募集は、職安法上自由にできる。このような一般向けの求人は、職安としての把握にしていない(求人票は職安に無い)。注意をしてもらいたいのは、求人情報誌は一般向けのものであり、新規学卒者対象ではない。新規学卒者に対する求人は2月になって初めて情報誌に載せることができ、その場合には職安に届けてある求人票の受付番号が紙面に載る。従って職安に行けば求人票を見て諸条件を確認することができる。新規学卒者が一般募集の中に入ってしまうと、職安としての様々な縛りの対象から外れてしまう。

 これらのことから指摘できることは、一般の文書募集については職安としての実態把握はほとんど出来ていないということ、更に情報誌に記載されているものは広告であるということである。職安の職員は、行革の影響で人員削減され、当面の業務をこなすので精一杯で、監督官庁としての機能にまではなかなか手が回らないというのが実状のようである。一般の求人についても、当然職安法の規制がある。例えば、採用にあたっては労働条件を明示しなければならない、特に賃金については文書を交付しなければならない等のことであるが、実際は口約束で済ましてしまうことも多くあるようである。学校を通じて(職安に届け出ている求人票を用いて)就職していくぶんには、さしたる心配もないが、そうではなくこのような情報誌を鵜呑みにして職業選択をすることには、多分に危険が伴うのである。そのことを生徒自身は知らないであろうし、教員もあまり考えていないことが多いのではないだろうか。

3.早期選考(就職協定崩壊)について

 アンケート調査の結果から指摘できる大きな問題に、早期選考がある。生徒が受験を希望する企業を見学に行く時期は、協定上は8月1日からとされているが、実際には75%の学校がこれより早く実施している。しかもこの見学を実質的な就職試験と考えている(やむをえずを含めて)という学校が85%に上り、更に80%近くの学校で見学に何らかの書類を持たせている。内々定後の辞退を認めるか、という質問に対して14%の学校が絶対に認めないと答えている。これらの数字をどう判断するかについては様々な考え方があると思うが、就職協定は必要か、の問いに対しては92%が必要であると答えている。
 労働部としてこれらのことをどう考えるか、という問いに対して次のような回答があった。労働部としては、企業側の責任による協定違反の実態が職安を通じてあがってくれば、企業に対しての指導をするが、実際にはほとんど聞いていない。しかし、実態調査の結果としてこういう数字があるということならば、これが現実なのであろう。正直に言ってここまで早く進んでいるとは考えていなかった。就職試験解禁が10月から9月に早められたことが多少、こういう青田刈りのような傾向に影響を与えているのかもしれないが、協定をこのように早い時期に動かしたのは、高校側の要請があったことも事実である(大学生だけ早くして、高校生はその残りの職種だけでは困る、という意味で)。高校生の就職にかかわる問題は、労働省と文部省で協議をすることになっているので、もしも協定を見直せということになるならば、同時に文部省にも働きかけてほしい。

 アンケートの回答の中には、協定の見直しや協定に法的拘束力を持たせて遵守させるべきだという声もあがっている。そういう必要性はおおいにあると思うが、協定を破っているのは企業側だけではなく、生徒のためを思って、必要に迫られて自らの手で破る学校もあるのである。その結果、初めて見学に行った企業で「内々定」が出てしまい、後で考えが変わって不本意な入社だったということで3年以内に離・転職する子供達も少なからずいる。そのことを考えると、この問題はもっと論議を深めて方策を考えるべきだと思われるが、少なくとも適職選択のための自由な会社見学だけは生徒に保証すべきではないだろうか。

4.卒業見込みの扱いについて

 調査書の中に「〇〇年卒業・〇〇年卒業見込」という欄がある。普通に考えると、現役か既卒者かの区別を付けるだけのものと解釈できるのであるが、これが問題になることがある。1学期末で成績に「1」が付いたり、出席が足らずに評価を欠いた場合である。就職の斡旋をする時に、職安法上で我々が職安の代行として行っているのは職業紹介であって、大学進学の時の「指定校推薦」で使われる意味での企業への「推薦」ではないのである。1の「指定校推薦」の中で労働部も言っている通り、この「推薦」は「紹介」の意味なのである。そのあたりを混同すると、1学期末で成績に「1」が付いたり、出席が足らずに評価を欠いた場合、推薦にふさわしくないとして就職指導を2学期末まで受けさせないということが起こってくるのである。つまり、卒業見込みの立たないものは推薦できないし、また企業に対しても失礼にあたり、信頼関係を損なって来年から求人が無くなると大変であるということなのであろう。
 そこで、「○○年卒業・〇〇年卒業見込」という様式を「○○年卒業・3(4)年在学」とすれば、たとえ1学期末で成績や出席が不振でも、いずれは挽回して卒業する可能性もあるということで、高校としてもそれほど気張らずに職業紹介が出来るのではないかと考え、調査書の様式を変えることはできないか、と労働部に尋ねた。
 労働部としては、高校を卒業する(高卒という資格で)という前提で求人をしているので、「卒業見込」という言葉は必要ではないかと考えている。ただ、改訂する必要があるというのであれば、全国統一応募書類として決めていることでもありすぐにとはいかないし、又、調査書については文部省の意向があるので、文部省に働きかけてほしい。

 こちらの趣旨は労働部としても理解しているようだが、成績不振で職業紹介をしないというのは、学校内部のことなのでそこまでは関知できないという意味のようである。

5.高校と大学のいわゆる「内々定」の意味の違いについて

 よく聞くことなのであるが、大学生は「内定(内々定)」をいくつも貰ってその中から好きな企業を選ぶことができるのに、どうして高校生は1社しか受験できないのか、という疑問がある。これについて労働部に尋ねてみた。
 高校と大学では職安法の適用条項が違う(高校は25条の3、大学は33条の2)。高校は、文部省と労働省の協議の下で職業紹介を行っている。大学の就職協定は、大学側と事業所との間のもので、労働省は関与していない。ただ、高校生への同時複数企業紹介は法律的には違法でない。同時に数社受験して、合格してから内定承諾書を出す前までなら、合格辞退ができる。それをしていないのは、高校と企業との信頼関係が崩れるのを恐れるからではないのか。

 ここでも労働部から企業との信頼関係ということが指摘された。確かに単年度では複数受験をさせて、生徒に好きなように選ばせることも可能であるが、「指定校推薦」の形を取っている中では、次の年を考えるとそれはダメだということになる。それならば、繰り返しになるが、十分に見学をさせていくべきだということになるのではなかろうか。

6.最後に

 高校生の就職をめぐる問題には多くの考えるべき事柄があります。一つの学校では解決できない問題でも、みんなで意見を出し合い高教組として要請していけば、労働部も誠実に受け止めてくれるという印象を持ちました。生徒に不幸な進路選択をさせないためにも、多くの意見を行政に伝えて改善すべき事柄は改善させ、又我々としても考えるべきことを考えていく必要があると思います。紙面の都合ですべての事柄を取り上げることはできませんでしたが、不足していることは、教研で発表したいと思います。一人でも多くの方の参加をお願いいたします。

教研「進路指導」11月17日(土)14:00〜
     於、希望が丘高校