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高校・学習指導要領改定案

神奈川新聞2008年12月23日

中学の復習授業可能に
文科省

 文部科学省は二十二日、高校の学習指導要領改定案を公表した。進学率が98%となり生徒層が多様化したことを受け、義務教育の内容を復習する授業を可能とすることを明文化した。週当たり三十時間(一時間は五十分)が標準の授業時間数を増やせることも明確にし、学校の裁量を拡大した。英語や理科、数学などの教科では科目を再編した。地理歴史は日本史の必修化を見送り、引き続き世界史を必修とした。

 来年二−三月に告示の予定。数学・理科は教科書検定を一年前倒しし二0一二年度入学生から、そのほかの教科は一三年度入学生から実施する。
 改定案によると、卒業に必要なのは七十四単位以上と現行通り。愛国心や公共の精神の尊重をうたった改正教育基本法を受け、学校で道徳教育の全体計画を作成するよう規定。伝統文化の学習充実を求めたほか、公民では「裁判員制度」を含む法教育や、宗教の多様性の理解などを明記した。
 日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)は、小中学校の新学習指導要領解説書への記載で政治問題化したが、改定案は地理で「日本の領土問題にも触れる」と具体名を示さず、現行通りの記述となった。
 数学では現行で「数学基礎」「数学T」の二科目から一つを選んでいたが、「数学T」だけの必修にした。国語、外国語(英語)も同様の選択必修制をやめて、必修科目を一つにして共通性が高まるよう再編した。
 英語は、授業は「英語で行うことが基本」と明記、「コミュニケーション英語T」を必修にした。中高で学ぶ英単語数は八百語増えて三千語程度となる。
 数学、理科では二次方程式の解の公式やイオンなどが中学に移行した代わりに「化学反応と光」などの内容を復活させたり、新規に盛り込んだりした。「数学T」は再編で統計を取り込んだ。理科は日常生活との関連を重視し「科学と人間生活」を新設した。
 就業体験の推進、充実を規定した特別活動などの一部内容は、一〇年度から先行実施する。
 特別支援学校の指導要領改定案も示され、全児童生徒の個別の教育支援計画を作成することを義務付けた。


日本史必修見送り 関係者の思い複雑
 教科内容を定め、学校現場の“法律”となる学習指導要領。二十二日示された高校の改定案は、一部で要望があった日本史の必修化を見送った。大学受験で選択する生徒が多く、関係者には複雑な思いも。独自の必修策を打ち出す自治体もある。政界には愛国心強化の観点から必修を求める声がくすぶり続けている。
 「指導要領を守るのは基本。でも日本史が必修に変われば、それにこしたことない」。愛媛県内のある公立高校教頭は話した。二〇〇六年に全国の高校で発覚した未履修問題。この高校も、大学受験の科目に選ぶ生徒が少ない世界史などの授業時間を、ほかの科目の受験対策にあてていた。
 指導要領と受験という現実の板挟み。教頭は、状況は変わらないと胸の内を打ち明けた。
 神奈川県教育委員会は県レベルで日本史系の科目「郷土史」「近現代史」を設け、一三年度必修化を目指す。松沢成文知事は「国際社会で生きるには日本の歴史や文化をしっかり理解することが重要。ほかの自治体にも広がれば」と近隣の知事にも呼び掛けている。
 地理歴史の教科で、世界史は一九八九年の改定で必修になった。以降、日本史と地理から選択という構図は変わらない。
 世界史必修は、日米貿易摩擦などの情勢を受け「国際的な感覚を育てようという意識が高まったからだ」と文科省幹部。「世の中は一層、国際化した。変える理由はない」とも話す。
 一方で、今月十七日の自民党文教関連部会では「党として積極的に取り組むべきだ」と日本史必修を訴える声が上がった。伝統や文化の尊重、郷土愛育成…。改正教育基本法の存在が背景にある。
 文科省は二十二日、高校改定案を中教審の部会に報告したが、一部委員は「中学の日本史の授業だけでは不十分。不満だ」と発言した。別の委員は会合後、日本史の取り扱いについて「案の公表で議論が終わりとはならないだろう」と語った。


「要望通らず残念」県教委
 県教育委員会の山本正人教育長は「首都圏の一都一二県と連携し、高校の日本史必修化を国に要望していたので残念。県教委は二〇一三年度から日本史必修化の方針で変わりはない。他県からも神奈川の取り組みを参考にしたいという声が届いており、先行して取り組みを進めたい」とコメントした。


【解説】将来像示せず課題残す
 二十二日公解説表の高校学習指導要領改定案は、授業時間の増加で「ゆとり教育」から大きな転換を図った小中学校の新指導要領に比べ、小幅な変化にとどまる。多様化が進む現状を追認し、高校教育の将来像を示すには至らなかった。改定案で、国語や数学などに共通必修科目を置いて、高卒の学力保証を強調する一方、義務教育段階の復習に言及したように、高校間の学力格差は拡大している。
 98%という高い進学率が今後大きく変わるとは考えにくい。大学全入時代などを背景に、低下が指摘される学習意欲を高めることも課題だ。
 高校の形態は全日制や定時制、通信制があり、コースも普通科や工業、商業といった専門科などさまざまだ。生徒の進学先、就職先も幅広い。高校全体の多様化と学力底上げという両面の対応を迫られたが、必修科目単位数や卒業に必要な単位数は「増やすことも減らすことも難しかった」(文部科学省幹部)といい、新たな道筋を示したとは言い
難い。
 指導要領という一つの枠組みにおさめにくくなる中、専修学校や高等専門学校との違い、普通教育と専門教育の在り方など中期的な課題が中教審でも指摘され、文科省は重い宿題を背負っている。