本文へジャンプ

ホーム > 神奈川の教育情報 > ニュース > 「愛国心」と歴史教育 3

「愛国心」と歴史教育 3

神奈川新聞2008年04月02日

「編成権の行使は越権」

 日本の近現代史を今以上に生徒に学んでもらうことに賛同する高校教員は多い。だが、県教委が打ち出した日本史必修化を歓迎しているわけではない。各校が行う教育課程(カリキュラム)編成に県教委が踏み込もうとしているからだ。「教育行政による越権行為で、教育内容への介入だ」と警戒する。

◇◇◇
 学校で最低限学ぶべき内容を示した学習指導要領では、各校が教育課程を編成すると定めている。必修科目に加え、どの科目を生徒に履修させるかは各校の裁量だ。
 教員たちは異口同音に言う。「学校によって生徒の学力や興味、関心、進路は異なる。生徒がじかに接する学校がカリキュラムを編成する方が理にかなっている」
 こうした教員らの主張に黒沢惟昭・長野大学教授(教育政策)はうなづいた。「現場の実践かの中から練り上げたカリキュラムこそ、教育効果が高い。教育行政は適正かどうかのチェックや支援にとどめるべきだ」
 実際、県教委が定めた県立高管理運営規則でも、校長が教育課程を編成すると明記している。単位制高校の、ある校長は「学習指導要領で必修ではない科目まで教育行政が必修を義務付けるのは、生徒が主体的に時間割を組む単位制になじまない」と批判する。
 当の県教委も「日本史を必修化する明確な法的根拠はない」と認め、管理運営規則に教育課程編成基準を新たに設けて義務付けようとしている。

◇◇◇
 しかし、県内では県教委に追随する動きはなく、市立高校を持つ横浜、川崎、横須賀の三市教委は静観している。県教委とともに文科省に日本史必修化を要望していた東京都と埼玉、干葉県の各教委ですら、独自の日本史必修化には「課題が多い」と慎重だ。学校の教育課程編成に影響を与えるとして「神奈川方式」を疑問視する。
 埼玉県教委は「年間の授業時間数が現状のままなら、他科目を削減しなけれはならない可能性が出る」と指摘。「新学習指事要領では小中学校で日本史学習をより充実させることになり、高校で世界史と日本史、地理の関連性をより重視するとした。新要領でも十分、対応できる」と話す。
 都教委は2007年度から、公共精神を高める目的でボランティア活動などを行う「奉仕」(1単位)を全都立高で必修化した。都立高管理運営規則に根拠を盛り込んで、都教委の教育課程編成に「合理性」を持たせた。神奈川県教委も、同じ手法で編成権を行使しようとしている。
 だが、都教委は「各校が教育課程の編成をしづらくならないように配慮した」という。運用面で高校に一定の裁量を与え、「総合的な学習の時間」(総合)の枠内で行うことを認めた。このため、都立高の約30%が総合で奉仕を行っている。独立した新科目を一律に設定使用とする神奈川県教委の必修化とは異なっている。  (成田洋樹)

○県立高校の日本史必修化の仕組み
 学習指導要領に基づき、高校生は近現代史の世界史A(単位数2)か通史の世界史B(同4)のいずれかを必ず履修する。さらに、近現代史の日本史A(同2)、通史の日本史B(同4)、地域性を考察する地理A(同2)、地誌の地理B(同4)の4科目の中から最低限1科目の履修が必要。日本史A、Bともに履修せず、地理のみを選択した生徒は、県教委が新設する「近現代史」(同2)か「神奈川の郷土史」(同1または2)のどちらかの履修が義務付けられる。